23歳で松山市内に開業して16年。県産農産物を使った「えひめスイーツコンテスト」でも二度の優勝を遂げ、地産地消のお菓子作りや地元との交流に積極的に取り組んでいます。

パティスリー ミカンカフェの永尾彰英シェフ



愛媛県産フルーツの魅力との出会い

こんにちは、スイーツジャーナリストの平岩理緒です。日本各地の菓子店による、スイーツで地域を盛り上げる取り組みをご紹介するこのコラム。第八弾は愛媛県・松山市の「パティスリー ミカンカフェ」です。
オーナーの永尾彰英(ながおあきひで)シェフは、福岡県のご出身。大阪府の製菓学校を卒業後、フランスでの研修を経て帰国。当初は関西のカフェに就職し、数年間修業した後に、23歳という若さで独立。2002年、奥様の郷里である愛媛県で、このお店をオープンしました。

地元に受け入れられるお菓子をと試行錯誤しながら、柑橘をはじめ、栗、苺といった愛媛県産の果物や、様々な素材の美味しさにふれ、その魅力を活かしたいと思うようになっていかれたそうです。
そんな中、2009年に、愛媛県産の農産物の特長を活かしたお菓子を対象とする「えひめスイーツコンテスト」がスタート。私は初回から審査員として参加させていただいていますが、第1回のプロ部門でグランプリを受賞した作品が「アンジェ」でした。

それ以来、お店を代表する看板商品として多くのお客様に愛されてきたチョコレートと柑橘のケーキが「アンジェ」。
使っている柑橘は、「清見(きよみ)」「温州みかん」「柚子」の3種。ドームをひっくり返したような形のビスキュイショコラ生地は、とてもしっとりした食感。中に閉じ込められているのは、柚子の果汁で炊いたカスタードクリーム。柚子の皮と、愛媛県西宇和産の「清見」の皮をすりおろしたものも入っていて、香りを後押ししています。上には、柚子の皮を香りのアクセントとして加えた温州みかんのマーマレード。そのマーマレードをブレンドした生クリームと、柚子皮を砂糖煮にして乾燥させたチップも飾りに。
フランスで学んだチョコレートと柑橘との相性のよさを、愛媛県の素材を使って表現した、永尾シェフのスペシャリテです。




第1回の開催となった「えひめスイーツコンテスト2009」グランプリ作品受賞の「アンジェ」 450円 (税込み)



柑橘で有名な都道府県は幾つかありますが、愛媛県の特徴は、何といっても多品種を栽培していること。全国シェアで圧倒的な1位を誇る「伊予柑」をはじめ、柑橘類を全て合わせた収穫量と品目数が共に日本一の、“柑橘王国”です。私もこの10年間で、県南にある「愛媛県農林水産研究所 果樹研究センター みかん研究所」や県内各地の柑橘産地を訪問し、様々な柑橘を見せていただいてきました。

「清見」は、日本の温州みかんと外国産のスイートオレンジの交配品種で、それぞれのいいところ取りをしたような、食味のすぐれた柑橘です。
永尾シェフの「アンジェ」は、複数の柑橘を合わせて使うことで、より多層的な香りやオリジナリティある味を表現しています。かといって、何でも合わせて複雑にすればよいというものではなく、主軸となる柚子クリームや温州みかんマーマレードの特徴を引き立てるため、清見は果汁でなく皮の爽やかな香りを活かしているのもポイント。コンテストの際にも、そういった複数の柑橘類をバランスよく使いこなしている点が、高く評価されました。
人気商品で、通年販売してほしいという声が多いため、柑橘が出回る時期に、果実や絞った果汁の状態で冷凍しておき、収穫できない季節にも使えるようにしているそうです。ですがやはり、その柑橘の旬となる冬にいただけるものは、格別の香りと味わいが楽しめます。



「タンゴール」と呼ばれる、温州みかんとオレンジの交配種の一種「清見」



「紅まどんなのショートケーキ」は、愛媛県生まれのブランド柑橘「紅まどんな」が出回る11月末~12月頃の期間限定で販売されています。「紅まどんな」は、皮が薄く、ぷるぷるの果肉が「まるでゼリーのよう」と評価される柑橘。このような、生でそのまま食べた時のみずみずしさが際立つフルーツをお菓子にするというのは、菓子職人にとっては、実はかなり難しいことなのです。

永尾シェフも、「紅まどんな」については、あえて加工をせずに、カットしたままシンプルなショートケーキにして販売していらっしゃいます。「紅まどんな」のみずみずしさを、ふんわりしたスポンジと、すっきりした生クリーム、少量のカスタードクリームとが受け止めて、苺のショートケーキとはまた違った、まろやかでやさしい印象です。
「紅まどんな」の時期が終わると、今度は「清見」のショートケーキにするなど、その時々の旬の柑橘を使っていらっしゃるそうです。



「紅まどんなのショートケーキ」 400円 (税込み)


「紅まどんな」の品種名は、「愛媛果試第28号」というちょっと硬いネーミング。「愛媛県農林水産研究所果樹研究センター」で、「南香」と「天草」という柑橘の交配によって生まれて育成されたもので、2005年に品種登録、2007年にJAえひめが「紅まどんな」として商標登録しました。栽培は愛媛県内に限られ、愛媛県内の系統JAから、糖度や酸度など、一定の品質を保証して出荷されたもののみが、「紅まどんな」を名乗ることができます。
ネーミングの由来は、松山市の中学校に教師として赴任した明治の文豪・夏目漱石によって書かれた小説『坊ちゃん』のヒロイン、「マドンナ」からですね。



皮が薄く果肉のみずみずしさが際立つ「紅まどんな」



地元との繋がりを大切に、苺や栗も愛媛県産を使用

冬から旬を迎えるフルーツといえば、苺も欠かせません。「愛媛産苺のチーズタルト」や「苺のタルト」に使用する苺も、愛媛県産を使用しています。愛媛県のオリジナル品種としては、「あまおとめ」や、2014年から市場に登場し始めた新品種「紅い雫(あかいしずく)」などがあり、赤い色の濃い「紅ほっぺ」なども使っているそうです。
苺は、パック詰めになっていると、互いにぶつかりあって潰れてしまい、飾りに使えなくなることがありますが、近場の農家さんにお願いしているため、苺どうしが当たって傷まないよう、全てヘタを下にして並べて持ってきてもらうといったリクエストもできて、無駄なく使えるといいます。



ベイクドチーズタルトの上に苺ジュレ入りのレアチーズと生クリームを重ねた「愛媛産苺のチーズタルト」 450円 (税込み)


愛媛県は、栗の産地としても有名です。「和栗のモンブラン」に使っている栗ペーストは、松山市内で栗の加工を得意とする業者さんで作られているものを使用しています。ここでは、和栗の繊細な風味を生かすため、殺菌温度などにもこだわっていて、あまり高温にせず、100℃以下で本来の味わいを残したペーストが手に入るそう。逆に、高温で処理することで、少しキャラメリゼされたようなコクのある香りのペーストも作っていて、好みや用途で選べるといいます。
「栗の皮むきや裏ごしから自分でするといった手間は、さすがにかけられないので、こういった、地元の素材をいい状態で加工してくれる業者さんの存在は、とても助かります。」と永尾シェフ。
「地産地消」のお菓子作りをしようとする中で、原材料を全て自家製で加工するのは、なかなか大変なことです。品質の高い一次加工品が手に入るかどうかというのも、大切なポイントですね。



「和栗のモンブラン」 530円 (税込み)



「柑橘王国」ならではの焼き菓子ギフト

「みかんの花のはちみつドーナツ」は、専用ボックス入りでギフト感がありつつ、気軽に差し上げやすいアイテムとして人気の商品です。
生地に入れているはちみつは、松山市内の養蜂家さんによる、「みつばちのダンスみかん蜜 Polka(ポルカ)」というブランドもの。5月頃に咲く白いみかんの花から採れるはちみつで、柑橘を思わせるフルーティーな香りとさっぱりとした甘みが特徴です。実はこの養蜂家さんも、奥様の元同級生でいらっしゃるのだそう。人と人との繋がりで、出会いが広がっているのですね。



「みかんの花のはちみつドーナツ RingRing」5個入1,250円 (税込み)


他にも、「南蛮焼き菓子・マルコボーロ」は、フランス菓子で「ブール・ド・ネージュ」と呼ばれるタイプのほろほろ食感のクッキーですが、和三盆、チョコ、きなこをはじめ、季節によって抹茶や苺などの味も登場し、こちらのお店の看板商品の一つとなっています。柑橘が香る「愛媛みかん」も、人気のフレーバーです。クッキー生地の中に、「清見」の皮をすりおろしたものと、温州みかんのマーマレードを練り込んで焼き上げ、表面に温州みかんのフリーズドライパウダーを混ぜた粉糖をまぶして仕上げています。



「マルコボーロ」 590円 (税込み)


店内のイートイン席にも、柑橘色の黄色い椅子やオレンジのカゴが置かれ、みかんの断面のようなデザインの時計も可愛らしい! 夏場に提供する、愛媛県産の柑橘や苺で作っておいた自家製シロップがけのかき氷も人気です。


「パティスリー ミカンカフェ」店内のイートインスペース


永尾シェフは、「えひめスイーツコンテスト」での優勝が一つの契機となり、県主催のイベントで小学生達に県産の苺を使ったお菓子作りを教えたり、農家の皆様を対象にしたスイーツ業界における農産物加工品の可能性等を考えるセミナーのパネルディスカッションに参加したりと、ご活躍の場を広げていらっしゃいます。
「愛媛県では、アールグレイ紅茶のフレーバーに使われる“ベルガモット”という珍しい柑橘なども栽培されていて、香りがよいので、どう使おうか?と考えています。まだまだ知られていない素材の魅力を伝えられえるよう、自分も協力していきたいです。」とのこと。これからも、地元の生産者さんとの交流を深めながら、様々な発信をしてくださるのが楽しみです。


(取材・文:スイーツジャーナリスト 平岩理緒)



「パティスリー ミカンカフェ」の外観 

 

店名 パティスリー ミカンカフェ(Mikan Café)
住所 愛媛県松山市越智2-6-4
電話 089-969-0876
FAX 089-904-1174
最寄駅 JR市坪駅
目印 JR市坪駅から車で約10分、県道190号線沿い、大山祇神社向かい
定休日 火曜日
営業時間 10:00~19:30
駐車場 あり 
イートイン あり 
カード
お取り寄せ 一部可能
お取り寄せ方法 電話・FAX



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