東京で修業した初代が帰郷してオープンしたフランス菓子店。二代目も上京し、渡仏して修業。コンクールでも名を上げて実家へ戻り、親子二代での営業を始め約5年となります。

フランス菓子 トワ・グリュの二代目、三鶴康友シェフ



老舗フランス菓子店の実家に帰郷して5
年目

こんにちは、スイーツジャーナリストの平岩理緒です。日本各地の菓子店による、スイーツで地域を盛り上げる取り組みをご紹介するこのコラム。第五弾は熊本県・熊本市の「フランス菓子 トワ・グリュ」です。

開業したのは1984年という老舗フランス菓子店。三鶴康友(みつるやすとも)シェフは、そんなお店の二代目であり、国内外で修業を積んだ後、熊本に帰郷して2013年にシェフパティシエに就任。お父様の眞一氏をはじめ、ご家族で共に経営されています。東京の製菓専門学校を卒業後、都内の名店「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」に入社してフランス菓子の奥深さに目覚め、4年働いた後に渡仏。南仏やリヨン、ピレネー地方で3年半修業を積み、帰国して「ダロワイヨジャポン」に勤務。その間に、「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」主催のコンクールで2011年に優勝し、日本の代表としてパリで開催されるコンクールにも出場しました。さらに、熊本に戻られてからも、2015年に同じコンクールで二度目の優勝を果たし、再びパリでのコンクールに挑戦しています。

「うちは、父親がバリバリの現役で、根っからの職人ですね。誰より仕事も早いし、ものすごい量を作りますよ。」と三鶴シェフ。勤続年数の長い職人さんやパートの方も多く働いていらして、定年まで勤め上げられる方も少なくないそう。「僕が子供の頃からずっと務めているような、大先輩に当たる方もいらっしゃるので、なかなか頭が上がりません」と笑う三鶴シェフ。

1992年に、創業の地である熊本市内の別の場所から現在の場所に移転して、2階建ての店舗に。三鶴シェフの帰郷を控え、より使い勝手がよくなるよう、大幅に改築されました。厨房スペースも1階・2階に広く取ってあり、エレベーターを備え、環境の整った明るい雰囲気。作る品物に合わせて、生菓子を仕込む部屋、オーブンのある焼き菓子製造の部屋、パイ生地を作る部屋、チョコレート製造部屋といった具合に区画されていて、2階には、資料室を兼ねた打ち合わせ・休憩ルームもあります。

ショーケース内には、お父様が創業時から作ってこられた「オペラ」や「ガトーモカ」といった、クラシックなバタークリーム仕立てのスペシャリテのケーキと共に、ショートケーキやプリンといった定番人気のお菓子、さらに三鶴シェフが新たに学んでいらしたフランス菓子が、ともに並んでいます。



創業以来、作り続けられる「ガトーモカ」と、三鶴康友シェフがフランスで愛される動物をアントルメ仕立てにした「はりねずみクン」は、1台価格1,944円(税込み)



初代シェフの頃から取り組んできた熊本の地産地消のお菓子

実は、初代の三鶴眞一シェフは、早くから熊本県の地元産素材を使ったお菓子作りに取り組んでこられた方。そんな実績を評価されて、2013年には、熊本県が県産食材のエキスパートに委嘱する“くまもと「食」の大地親善大使”にも任命されていらっしゃいます。


くまもと「食」の大地親善大使にも任命されている初代・三鶴眞一シェフ



「トワ・グリュ」を代表する熊本の地産地消菓子の一つが、県産のフルーツや野菜を使った「KUMAMOTOパート・ド・フリュイ ななつの恵み」。そして「くまもとマカロン」です。

「KUMAMOTOパート・ド・フリュイ ななつの恵み」は、熊本県内の各地で収穫される7種の農産物、網田産ネーブル、植木産パッションフルーツ、熊本産ブラッドオレンジ、松橋産ぶどう、八代産トマト、南阿蘇産ブルーベリー、城南産いちごを原材料としています。


KUMAMOTOパート・ド・フリュイ ななつの恵み 7種種各2個入りボックス 1,836円(税込み)



このパッケージは、三鶴シェフがご実家に戻られてからリニューアルしたデザインで、イラストタッチで描かれた農産物の柄が可愛らしく、お土産品として、さらに人気上昇!熊本空港でも販売されるようになった、「トワ・グリュ」を代表する熊本地産地消のお菓子です。




KUMAMOTOパート・ド・フリュイ ななつの恵み には熊本県産の7種の農産物が使われている



それぞれの素材は、農家さんやJAから大量に届く果実やジュースを、一気に加工するそう。たとえば、パッションフルーツであれば、果実を1個ずつ半割にして中の果肉を掻き出し、粒々の種を濾すという仕事を、「トワ・グリュ」では、全て手作業で行っています。時には、数百kgといった量で届く果物もあり、大仕事となるそうです。全国的にも有名なブランドである八代産
のトマトは、「JAやつしろ」の特産品である「はちべえトマト」をジュース加工したものを使っています。
10kg単位の量であれば、店の厨房で加工できますが、百kgを超える量になると、果物加工場の設備を借りて、搾汁させてもらうこともあるそう。最近も、農家から300kg以上のネーブルやブラッドオレンジが届いたため、スタッフの皆さんと一緒に加工してきたそうです。絞ったジュースを殺菌して袋に詰め、ジュースと皮を持って帰り、これを使って様々なお菓子を生み出していきます。



農家から届いた大量の柑橘は、加工場の設備を借りて搾汁することも




植木産パッションフルーツを使ったマシュマロも、春は桜柄の小袋入りに 5個入162円(税込み)



農家で、毎日少しずつの量を注文通りに出荷するというのは、実はなかなか大変なことなのです。農家側の都合で、まとめて収穫しなくてはいけない状況になることもあり、そんな時に、全量を受け入れてくれる先があるというのは貴重です。お店側にとっても、その分、安い単価で購入できるというメリットがあります。そんな関係性で、もう20年以上のお付き合いとなっている農家さんもいらっしゃるのだそうです。

 

ある日の休憩室に置かれていた、農家さんからの差し入れ品。「こういう戴き物もよくあります」と三鶴シェフ



「KUMAMOTOマカロン」は、天草産シモン&抹茶、河内産青みかん、天草産塩キャラメル、城南産いちご、植木産パッションという5種類の味があり、アソートのギフトボックスもある他、単品でも購入できます。中身はバタークリームベースに、先のパート・ド・フリュイをもっとゆるく炊いたようなゼリー状のペーストを混ぜ込んで作っているそうです。



KUMAMOTOマカロン 5個入1,296円(税込み)、10個入2,268円(税込み)



「青みかん」は、まだ青いうちに間引きされた“摘果みかん”を有効活用するために開発したもの。「シモン」というのはサツマイモの仲間で、その葉のパウダーは、食物繊維やビタミン・ミネラルが豊富と言われ、「トワ・グリュ」でも、マカロンや、夏のアイスクリームなどに使ってきました。ですが、生産者さんの都合で、今後、このパウダーが入手しづらくなる可能性があるそう。
その代わりに、三鶴シェフが注目しているのが、最近作られるようになったという熊本県山鹿市産の抹茶。熊本県内でお茶を栽培する地域は多いのですが、これまで抹茶は作られていなかったのだそうです。

「今年のバレンタインに、熊本の百貨店の催事限定品として、この山鹿市産抹茶を使った生チョコを販売したところ、好評でした。今後、安定して入手できるようになったら、使い始めたいと思っています」とのこと。


熊本県産フルーツを使った生菓子もあります。12月頃から5月頃にかけての人気商品「いちご生大福」は、ぎゅうひの中に、スポンジと生クリーム、丸ごとの苺を包み込んだもの。ぎゅうひの下に、うっすらと苺のスライスの赤が透けているのが可愛らしいお菓子です。九州内のイベント販売はもちろん、東京の百貨店催事で販売されることもあり、「トワ・グリュ」の看板商品の一つとなっています。




いちご生大福 は、和洋折衷が特徴の春の人気商品



もちろんこの苺も、近隣の農家さんから届くもの。その時に美味しいものを届けてもらうので、熊本固有の品種という訳ではないそうですが、最近、熊本で開発・品種登録されたオリジナル苺「ゆうべに」なども、新しい品種も、味が安定してより美味しくなることを期待していると言います。
「ゆうべに」の正式な品種名は「熊本VS03」ですが、一般から愛称を募集し、熊本の「熊(ゆう)」と苺の「紅(べに)色」を合わせ、2015年に発表されました。三鶴眞一シェフは、“くまもと「食」の大地親善大使”&愛称選考委員として、その式典にも参加されたそうです。


いちご生大福 378円(税込み)



沢山届いた果物類は、コンフィチュールにも加工します。春は、いちご、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジなどの瓶が並びます。「いつ届くかわからないので、いつ作るか、いつから店に並び始めるか、毎年わからないんですが・・」と笑う三鶴シェフ。ここでも、産地を示すポップをつけることで、熊本県産素材であることをアピールしています。


熊本県産フルーツのコンフィチュールも並ぶ



ブラッドオレンジは、もともと、地中海沿岸地域で作られている柑橘ですが、最近、日本でも栽培する農家さんが出てきています。そのように農家さんが懸命に作られたものを、地元の菓子店がお菓子に加工して、看板商品にまで育て上げていらっしゃるというのは、素晴らしいことですね。




ブラッドオレンジは主に「モロ」と「タロッコ」という2つの品種が栽培されている



これから、二代目としてやっていきたいこと

帰郷してから、店のディスプレイには、三鶴シェフが得意とする大きなマカロンタワーが並ぶようになりました。季節によりカラーリングが変わり、春はピンクや白で可愛らしく。今年は、これまで熊本ではあまりなじみのなかった「イースター」をテーマにしたパッケージを使ってみるなど、少しずつ新しいことに取り組んでいます。「すぐに結果が出る訳ではなくても、続けていくことが大事かなと思って」という三鶴シェフ。コンクールでも優勝した、スペシャリテのフランス伝統菓子「ガレット・デ・ロワ」も、「熊本だと、お客様から『大きな月餅ですか?』って聞かれちゃうんですよね。かえって、首都圏のお客様から配送のご注文をいただいたりして」と仰いますが、それでも毎年作り続けることで、少しずつ、地元でも受け入れられるようになってきた手応えを感じていらっしゃるそうです。


「フランス菓子 トワ・グリュ」の店内ディスプレイ



三鶴シェフが修業先で学んだ、思い入れの深いお菓子もあり、その中でも「バスク オ マロン」は、最初に師事した「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」の藤生シェフのスペシャリテである「ガトーバスク」を元にアレンジしたもの。藤生シェフは、中に絞るのがカスタードクリームだったそうですが、こちらではアーモンドクリームに変更。入手できる期間中は、熊本県産の栗の渋皮煮を入れて焼き上げています。「これは、なんとかお客様に定着しましたね。僕が帰ってきてから、ずっと作り続けています」と三鶴シェフ。ザクッとした生地の中に、しっとりしたアーモンドクリームとほっくりした栗の渋皮煮という食感の対比が楽しめ、私も大好きな一品です!

 

バスク オ マロン 389円(税込み)

 

一方、お父様が築いてこられたベースを大切にしながら、変化させていく必要も感じているそうです。
焼き菓子ギフト品の中で、売れ筋の二大商品は、アーモンドとバターの香る「フリアン」と、バターソテーしたりんご入りパイの「ショーソン・オ・ポンム」。いずれも、三鶴眞一シェフが東京でのパティシエ修業時代に、六本木のケーキ店「パンドラ」で出会い、感動したフランス伝統菓子。当時より変わらない製法で今も作り続ける、ロングセラー商品となっています。

脱酸素剤を入れずに販売しているため、日持ちが数日間と短いのですが「それだと、遠方の催事とかに出せないんです。いい商品なので、もっと売っていきたいと思っていて、今後、「フリアン」にはエージレスを入れることも検討していこうかと思っています」とのこと。また、最近、バターが入手しづらくなっていることも懸念していて、「乳業メーカーから、前年の納品分以上には量を増やせないと言われて、バターを使わないお菓子も考えていかないといけない時代だなと思います」という三鶴シェフ。

 

店のロングセラー人気商品のギフトボックス、フリアン 10枚入1,782円(税込み)と、ショーソン・オ・ポンム 15個入4,374円(税込み) 単品でも販売

 

ところで、「トワ・グリュ」という店名は、フランス語の「3」と「鶴」を合わせた造語。実は、「三鶴」という苗字をフランス語にしたものなのです。そんな店名にちなみ、最近、3羽の鶴が仲良く並んだ絵柄のギフトボックスを新しく作ったという三鶴シェフ。つがいの鶴の足元に、小さな子供の鶴が寄り添っています。

三鶴シェフにとって、職人として大先輩でもあるお父様の存在は大きく、ご自身は、まだまだ遠く及ばないという気持ちがあるかもしれません。けれども、しっかりと熊本の地に根付き、お客様や生産者の方々と共に着実に歩んでいること、さらにこれからへの意気込みが伝わってきます。


新しく作ったギフトボックスには、3羽の鶴が並んでいる



九州の若手世代のパティシエの一人として、お菓子業界の中でも注目されている三鶴康友シェフ。熊本の地で、親子二代での店作りと菓子作りに向き合い、これからも、妥協のない仕事を続けていかれることでしょう。熊本だからこそできる素材使いや、地元密着の取り組みで、東京やフランスのパティシエ達からも一目置かれる存在として、ますますご活躍いただきたいと思います。



(取材・文:スイーツジャーナリスト 平岩理緒)

 

店名 フランス菓子 トワ・グリュ
住所 熊本県熊本市南区江越2-1-11
最寄り駅 平成駅
目印 JR平成駅から徒歩約10分
電話 096-378-0249
FAX 096-378-0500
営業時間 10:00 – 19:00
定休日 元日のみ
駐車場 あり 
イートイン なし
クレジットカード 不可
お取り寄せ 一部可能
お取り寄せ方法 電話・FAX
ホームページ http://www.trois-grues.co.jp/

 

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