軽井沢のホテルに務め、その豊かな自然に魅せられた女性が小さな菓子店をオープン。地元産の果物や野菜を採り入れたお菓子作りと、時折見せる母としての顔。その姿はきらりと輝いています。

パティスリー イロドリの岡部妙子シェフ



東京出身のパティシエールが、軽井沢にお店をオープンした理由とは?

こんにちは、スイーツジャーナリストの平岩理緒です。日本全国の菓子店より、スイーツで地域を盛り上げる様々な取り組みをご紹介するこのコラム。奈良県、鹿児島県に続き、第三弾は長野県・軽井沢町よりお届けします。
「パティスリー イロドリ」の店主、岡部妙子(おかべたえこ)さんは東京都ご出身。料理人でいらっしゃるご主人も、長野県のお生まれという訳ではありません。にもかかわらず、開業するのに、この軽井沢という地を敢えて選び、お店を開くことになったのは、豊かな自然の恵みと環境に魅せられてのことでした。

都内の製菓専門学校を卒業後、フランスでの3年間の修業を経て、2008年より星野リゾートの「軽井沢ホテルブレストンコート」にシェフパテイシエールとして勤務。地元産の果物や農家の方々との出会いを通じて、軽井沢や長野県への愛着が深まっていったと言います。2014年9月、独立して小さな可愛らしいパティスリーをオープンしました。

お店のある中軽井沢駅は、軽井沢駅からローカル線でひと駅隣の少し奥まった場所。最近は星野リゾートをはじめ、新しいホテルや商業施設なども増えている開発エリアの玄関口として人の出入りも増えていますが、ショッピングモールなどのある観光中心地に比べるとまだまだ静かな場所です。

しかしながら別荘を訪れる方はもちろん、他地域からの移住者も多く、口の肥えたお客様の多い地域。岡部シェフはこの場所で、これまで学んできたフランス菓子の伝統と、信州の旬の素材とを融合させた丁寧なお菓子作りに取り組んでいます。




長野県産の旬の素材を使った、丁寧なフランス菓子を作る

たとえば、“季節のタルト”を意味する「タルト・セゾン」はフランス菓子の定番である焼き込みタルトですが、夏には千曲市(ちくまし)産の杏、初秋には佐久市(さくし)産のプルーンや、生産量の少ない珍しい小布施町(おぶせまち)産の青りんご・ブラムリー、さらに秋が深まれば紅玉など、信州産の季節のフルーツ類を積極的に使用します。
味わいを活かすため、パートブリゼの土台にクレームダマンドを絞り込んだ上に素材をのせシンプルに焼き上げた素朴なスタイルです。その中でも、杏は一度コンポートにしたり、プルーンはやや大きめに切ってゴロゴロと、りんごは薄くスライスしたものをフレッシュのまま並べたりと、それぞれの素材の風味や食感をしっかりと楽しめるような下処理やカットを施す、丁寧な仕事ぶりが光ります。

ショーケースの上に常温販売で並べて販売。プティガトーサイズの他、予約でホールサイズも作るそうです。



タルト・セゾン 400円(税込み)、直径12、16、18cmは要予約 



「マロン カシス」は、むしろフランスでは「モンブラン」よりも見かけることの多い人気の栗菓子で、舟形の「バルケットマロン」は、修業先のシュークルダールで提供していたものからアレンジ。クレームダマンド入りで焼いたパートシュクレ生地の上に、濃厚なマロンクリームをこんもりと山のように盛り付けています。中には、小諸産のカシスの粒でゴロゴロとした食感の残る甘酸っぱいコンフィチュール入り。上にもカシスのコンフィチュールと実を飾っています。



マロン カシス 450円(税込み)



農家さんとも親しくなり、自分自身でも果実の収穫に行くという岡部シェフ。定番のショートケーキ「ガトー フレーズ」の苺も地元産のものを使用し、朝摘みのものが使えるそうです。この地域では「紅ほっぺ」などが多いそうですが、たまに、まだ市場に出回っていない、農家さんで試験栽培中の新品種が手に入ることもあるそうです。

長野県では「すずあかね」や「サマークイーン」といった夏秋苺も栽培されているので、海外産に頼らなくても通年で比較的安定した状況で苺が手に入ります。



ガトー フレーズ 400円(税込み)



クレームブリュレも季節で中身を変え、地元産の果物だけでなく野菜も使用。春にはグリーンピースを使い、カリカリのキャラメリゼを割ると美しい豆の色が現れる、個性ある一品が登場します。夏にはベリー類をコンポートにしたフリュイ・ルージュ入り、秋から冬にはかぼちゃやチョコレートなどの味も出るそうです。



季節で内容の変わるブリュレ



他にも珍しい地元産のフルーツとして、近隣の中野市で栽培されているサワーチェリーなどがあります。生食用の甘いさくらんぼとは異なる、酸味の強いさくらんぼです。6-7月頃の収穫期はコンポートやコンフィチュールにして使うのはもちろん、キルシュに漬け込んだものをチョコレートと合わせたフランスの伝統菓子「フォレノワール」を作るなど、冬場にも使うそうです。

都会では忘れられがちな自然の恵みへの感謝と、それを活かす知恵に彩られた本当の豊かさとはこういうものではないか、と感じられるお店。岡部シェフが、この地でお菓子作りをしていきたいと願った意味が伝わってきます。

 

長野県小布施町で採れる青りんご「ブラムリー」



母として、職人として生きるとは?

実は2017年3月から7月にかけて、お二人目のお子さんのご出産のために産休・育休を取られ、しばらく休業していらっしゃいました。
上のお子さんは小学校1年生。最近は、見よう見真似で仕事の手伝いをしたがるのだそう。そんな話をしながらも、奥の方からお子さんの泣き声が聞こえてきて、「ちょっと待ってくださいね」と様子を見にいく岡部シェフ。二児のお母様として、仕事に育児にと、日々たくましく奮闘されています。

私が取材に伺った時は、営業を再開されてから間もなく、「様子を見ながら少しずつ始めているので、まだ品揃えが少なくて・・・」とのことでしたが、そんな中でも少しずつ商品を増やし、新しいことにも挑戦していきたいと意欲をお持ちです。




こぢんまりとした可愛らしい店内には、カウンターのイートイン席も



「プティ・ケーク」は、バターと蜂蜜をたっぷりと使用した生地の中に信州産素材を焼き込んだ小さな一口または二口サイズのケークのシリーズ。この時は、大粒の花豆と表面に芥子(けし)の実を散らした信州味噌とのセット、胡桃とグリオット(サワーチェリー)をセットにしたものが並んでいました。今後、杏や、ぶどうを自家製レーズンにしたものなど、種類を増やしていきたいとのこと。




プティ・ケーク各種 2種入260円(税込み)



「キャラメル ノワ」にも信州産の胡桃を使い、レーズンなどと共にクッキー生地の上にのせてキャラメルソースがけで焼き上げています。

長野県では、胡桃を使ったお土産菓子がよく見られますが、実は信州産の胡桃は非常に出荷量が少なく、海外産のものに比べて価格も何倍もするという大変貴重なものです。

日本の胡桃は粒が小さめなうえに殻が硬く、割って中身を取り出すのが難しく手間暇がかかるため、本腰を入れて加工・出荷する農家も少ないそう。

けれどもやはり香りのよさが際立っているので、できるだけ地元産のものを使っていきたい、と岡部シェフ。そういった価値を理解し、さらに付加価値をプラスして食べ手に伝えるということも職人としてのやりがいですね。




右:キャラメル ノワ 250円、左:サブレ エピス 120円(いずれも税込み)



フィナンシェ、マドレーヌ、ガレット・ブルトンヌなど、フランス菓子の定番の焼き菓子類も並ぶ



職人として、母としても信州の豊かな自然の中で生活し、仕事を続けていくことを選んだ岡部シェフ。最近の製菓業界では、パティシエール、すなわち女性の職人さんが増えていますが、育児と仕事との両立は業界にかかわらず、社会全体で考えるべき大きな課題の一つです。「パティスリー イロドリ」の形は、今後の生き方を考える女性にとってはもちろん、多くの人にとって生き方と働き方を考える一つのヒントになることでしょう。

(取材・文:スイーツジャーナリスト 平岩理緒)

 

 

パティスリー イロドリの外観 

 

店名 パティスリー イロドリ
住所 長野県北佐久郡軽井沢町中軽井沢6-6
電話・FAX 0267-31-0265
最寄駅 しなの鉄道線中軽井沢駅(徒歩1分)
営業時間 10:00-18:00
定休日 水・木曜日(不定休あり)
駐車場 あり
イートイン あり
クレジットカード 不可
お取り寄せ 一部可能
お取り寄せ方法 電話・FAX
ホームページ
Facebook
http://www.patisserie-irodori.com/
https://www.facebook.com/pattiserie.irodori/

 





※「平岩理緒 季節のまちおやつ便り」は、本コーナーおよび、おやつマップ(エリア別)検索の双方で見つかるように、同じ記事で検索用タグを変更し、2記事(同じもの)HP上に公開しています。

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