初代から引き継いだ店を、自身が学んだヨーロッパ仕込みの菓子専門店としてリニューアル。地元の生産者との出会いを大切に、町に根付いた店にしたいと、二代目は語ります。




奈良の閑静な町で、先代の洋菓子店を二代目がリニューアルオープン

大阪と奈良を結ぶ近鉄奈良線の沿線に位置する「富雄(とみお)駅」。そこからほど近い路地を入った一角に、突然、ヨーロッパのパティスリーのような吊るし看板が目を引く、白基調の洒落た店構えが現れます。それが「パティスリー・ショコラトリー エメラ」。

ここはかつて1970年代に、先代の藤原洋治氏がオープンした「エメラ洋菓子店」のあった場所でした。

二代目の藤原尚樹シェフは、奈良の名店「ガトー・ド・ボワ」での修業を経て渡欧し、ベルギー・ブリュッセルの「ル・サントーレ」で 3年の修業後、帰国。2012年に、先代から受け継いだ店舗を「パティスリー・ショコラトリーエメラ」としてリニューアルオープンされました。


 



 


洗練された雰囲気の中に秘められた、伝統の継承とオリジナリティへの強い思い

店内は白壁に少し緑を差し色とした明るい雰囲気で、ショーケースの中にも華やかなガトー類やカラフルなマカロンが勢揃い。私が訪ねた時はちょうど冬場で、藤原シェフがベルギーで技術を学ばれた色とりどりの型抜きボンボンショコラも専用ショーケースにたくさん並んでいました。

藤原シェフのお菓子の表現は、洗練され現代的でありつつ、べースは、ご自身が学んでいらしたフランスやベルギーの伝統菓子、古典などを尊重。さらにその奥底には、先代の教えや魂を受け継ぎ、古都・奈良の「富雄」という町からオリジナリティあるお菓子を発信しようという秘めた情熱が感じられます。

 

藤原シェフがお店のコンセプトとして挙げるのは、古都にふさわしい、“みやび”という言葉。見せびらかすような派手さではなく、様式美を備え、味も、じわじわと美味しさが伝わって、「もう一つ食べたい」と思っていただけるようなお菓子作りを目指し、丁寧で繊細な日本人らしい “みやび”を伝えたい、感じていただきたいとのことです。

 

 


タルト 古都華 562円(税込み)

 

 

人気の苺タルトに、奈良生まれの新品種を使用

奈良生まれの「古都華(ことか)」という品種の苺をたっぷりと盛り込んだ「タルト古都華」は、地元の熱意ある生産者さんとの出会いを大切に、その素材を活かしていきたいという藤原シェフの思いが伝わる一品。冬から春にかけて、苺が美味しい季節の限定販売です。

いかにも奈良らしい、雅やかな苺の名前も印象的。「古都華」は、奈良県農業総合センターが様々な掛け合わせの中で育成した苺で、2011年に品種登録された比較的新しいものです。「紅ほっぺ」の形質を継いでいますが、さらにさかのぼると「さちのか」や「女峰」「アスカウェイブ」といった苺の系統も引いています。

首都圏などにはまだほとんど出回っておらず、奈良県内であっても、どこでも気軽に手に入るというものではありません。そういったご縁も、地元にしっかりと根付こうと、常にアンテナを張っていらっしゃる藤原シェフだからこそ、引き寄せられたのだと思います。そして、地元だからこそ、ぎりぎりまで完熟させ、赤く色づいた美味しい状態で使うことができるというのが、何よりも強みですね。

私も、藤原シェフがお取引をしていらっしゃる所とは別の農家さんですが、「古都華」の生産者を訪ねたことがあります。特長は、ハリとツヤのある綺麗な赤色の表面。そして香りも強く、糖度と酸度が共に高めで、深みのある味わいだと評価されています。

お菓子に使う苺は、適度な酸味があった方が味のトータルバランスが取れると、パティシエの方々はおっしゃいます。こちらの苺のタルトも、アーモンドクリーム入りでしっかりと焼き込まれた土台のタルトの香ばしさとコクのある甘さが、上に飾る苺の爽やかなみずみずしさ、さらにクレーム・パティシエールや生クリームのまろやかさと、それぞれが互いを引き立て合ってシンプルな構成でいて、本当に奥深い味わいを醸し出しています。

 

 


タルト 古都華 4名分アントルメ 2,700円(税込み)


4人分を想定した4.5号サイズのアントルメも作っていらして、こちらはまた、カットされた苺と丸ごと苺がたっぷりのせられた苺尽くし!記念日やお祝いにもぴったりの華やかさです。

 

雅 562円(税込み)

 

 

奈良県産の抹茶、ほうじ茶にも注目

藤原シェフはこれ以外にも、奈良県産の「お茶」にも注目されています。奈良県の北東部に位置する月ヶ瀬村は、県内のみならず日本の中でも有数のお茶の栽培地。高地にあり、朝夕の温度差が大きいなど冷涼な気候風土が茶の栽培に適しているため、その生産の歴史は古く、中には何百年も続く農家もあるそうです。栽培される茶の多くが「かぶせ茶」と呼ばれ、茶葉に日光が当たらないよう覆いをかぶせて育てるやり方というのも、この地域の特徴となります。そのため、月ヶ瀬の抹茶は、旨みや香りが濃厚だと、藤原シェフはおっしゃいます。

そんな、地元の茶処で作られる抹茶やほうじ茶を、ご自身が学んで来られたお菓子に採り入れた品も、「エメラ」のスペシャリテとして外せません。

「雅(みやび)」は、艶やかなグラッサージュがけのミルクチョコレートのムースの中に、月ヶ瀬のほうじ茶を使ったクリームと、同じく月ヶ瀬抹茶のババロア入り。アクセントにフランボワーズのクリームも薄い層にして忍ばせてあり、土台には白胡麻のチュイルがサクサクした食感を添えています。ほうじ茶と抹茶を同時に使い、それぞれを立たせることはなかなか難しいと思うのですが、このお菓子は、ほうじ茶の香ばしさと抹茶の爽やかな香りや旨み、ほのかな渋味とがうまく両立しています。お店のコンセプトとして挙げられる“みやび”を名前に冠した、強い思い入れが伝わってくる作品です。

飾りにのせられている、一見すると苔玉のようなものは、気泡が粗めでちょっと不思議な食感の抹茶の生地。これは、生地をエスプーマで絞ってレンジ加熱することでできる蒸しケーキのようなもの。前衛的なレストランの料理などで見られることがありますが、パティスリーではあまり見ることのない製法です。こういったところにも、藤原シェフのオリジナリティーが表現されています。


 

エクレール 月ヶ瀬 411円(税込み)


「エクレール 月ヶ瀬」は、2016年に登場した新作で、月ヶ瀬産のほうじ茶がたっぷりと香るクレーム・パティシエール入り。
藤原シェフが使用しているほうじ茶は、月ヶ瀬でも珍しい「砂入り焙じ」という焙煎方法で作られたものとのこと。これは、お茶を焙じる際に炒り機に砂を入れることで、砂の熱で香ばしく口当たりよく上品に仕上がる製法で、ほうじ茶の旨みや香りがしっかり出るのが特長だそうです。そんな風味豊かなほうじ茶をじっくりと煮出したクリームと、しっかり焼き込まれた香ばしいシュー生地との相性は抜群。フランスの伝統菓子でありつつ、ほうじ茶の香りが効いているため、日本人が食べてもどこか懐かしい、ほっとするような郷愁が感じられます。

 

 

フィナンシェ オ 抹茶 238円(税込み)

 


月ヶ瀬の抹茶を使ったフィナンシェには、「地産地消」のポップが添えられていました。月ヶ瀬のお茶は有名ですが、地元のお客様でも、近隣で栽培されている素材について、意外とご存知ないといったこともあります。
このように、わかりやすく伝えていくということも大切ですね。

ご自身の故郷である奈良の地元に根差し、素材の生産者の方々の思いをお客様を届けることも担おうとされている藤原シェフ。これからも頑張っていただきたいですね。

 

(取材・文:スイーツジャーナリスト 平岩理緒)



店名 パティスリー・ショコラトリー エメラ
住所 奈良県奈良市富雄元町2-6-40
電話・FAX 0742-44-6006
最寄駅 富雄駅
目印 富雄駅から徒歩2分、とりみ通り「トミオプラザ」脇の路地を入る
営業時間 11:00~19:00
定休日 水曜日(不定休あり)
駐車場 なし
イートイン なし
クレジットカード 不可    
お取り寄せ 一部可能
お取り寄せ方法 ホームページに記載のメール宛てに問い合わせのうえ、代金引換か銀行振込
ホームページ、
ブログ等

http://patisserie-emera.jp/​
https://www.facebook.com/329363013882546/

http://ameblo.jp/patisserieemera

 





※「平岩理緒 季節のまちおやつ便り」は、本コーナーおよび、おやつマップ(エリア別)検索の双方で見つかるように、同じ記事で検索用タグを変更し、2記事(同じもの)HP上に公開しています。

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