お菓子を作る側からニーズや要望を果物や野菜の生産者へ伝えるなど。点と点を繋げ、地産地消のよいサイクルを作るために、お菓子屋さんができることを模索しています。




「子どものころ、母が持ち帰ったフルーツケーキが、それはおいしくて。それを食べたときの衝撃が、いまの仕事につながっていると思います」

琵琶湖からほど近い、滋賀県は大津市、皇子山に「パレット」というお菓子屋さんがあります。創業は1986年。店主でシェフの前田省三さんにお店のこと、お菓子のこと、そして地産地消についてお話を伺いました。
前田さんがお菓子の世界を進むきっかけとなったのは、子どものころの経験が大きく影響していると言います。
「母が看護師をしていて、患者さんからいただいたお菓子を家に持って帰って食べさせてくれたことが原体験なのです。普段、口にしたことのない“くらくらするほどのおいしさ”に衝撃を受けました。そのときは、お酒が染み込んだフルーツケーキで酔っ払っていたのもありますね」
そう言って笑う前田さん。子どものころは漫画を描くことが好きで、将来は本気で漫画家になろうと考えていたと言います。
「漫画家というと親が激怒するだろうと思い、デザイン系の仕事に進もうと思っていました。けれども、先天性疾患の赤緑色弱があり、美術・工業への道は難しいとなったのです。そして、小さい時から好きだった“ものづくり”にシフトチェンジし、それがお菓子へと繋がり、この世界へ進むことになりました」




“もう一度食べたい!”と思わせる製品作りをするために。「本物の材料を使い、その材料が持つ力を最大限に引き出します」

福井県で生まれ育った前田さん。京都、大阪と修業時代を経て29歳で独立。滋賀県大津市に「パレット」を創業しました。店舗は現在、滋賀県内に6店舗。コンセプトは、ずばり“おいしいお菓子と笑顔は人を幸せにする”です。前田さんがお菓子を作る際、一番大切にしていることとは何でしょうか。
「心に残る味わい、もう一度食べたいと思わせる製品作りを心がけています。そのためには、本物の素材を使うこと。本物だけが持つ力を引き出していくことで作られる味わいを大切にしています」

皇子山店には生ケーキのほか、焼き菓子やジェラート、自家製のブレンドソフトクリームなども並びます。それらの中で、地元の食材を使っているお菓子のひとつが「しあわせのおすそわけ」です。
口のなかでホロホロッと崩れる食感がたまらない、優しい味わいのポルボロン。以前から販売されていた「いちご」 「近江かぶせ茶」 「和三盆」に加え、今年9月、黒豆が加わって4種類となりました。近江かぶせ茶と黒豆は地元の食材を使っているそう。
「滋賀県は日本で最初にお茶を栽培したという歴史があるのです。近江かぶせ茶は味が濃く、香り豊かなのが特徴。『かぶせ茶』とは茶の木に直接覆いをかけて栽培するのですが、渋みとなるカテキンが少ないので、お菓子にするにはもってこいです。
また、黒豆も滋賀県が誇る名産品の一つだそう。大きさは中粒だけれど品質が高く、素直な素材ゆえ、ほかの素材との相性がよいと前田さんは続けます。

 

ほかにも、近江といえば鮒ずしをお菓子にアレンジしたユニークなパイ「ふなずしパイ」も地元ならではのお菓子の一つです。
「ふなずし独特の匂いを抑えつつ、うまみを残して。豆乳を混ぜたオリジナルの“びわチーズ”を練り込んでいます。頭から骨まで丸ごと使ったふなずしのフレークで、食感よく仕上げています」

 

 

しあわせのおすそわけ

 

ふなずしパイ



生産者、中間業者、加工業者。地産地消を目指す点と点を繋げて線にし、品種開発をしたり、よりよい製品を作ったり。いいサイクルを作りたい。

また、現在開発中というのが「近江米タルト」。琵琶湖の豊富な水が育てる地元が誇る近江米を使用したお菓子です。
「近江米は昔からおいしいお米として定評がありました。その近江米をスイーツにできないかと試作中です。卵、牛乳、チーズで炊いた近江米クリームをタルトに流し込んで焼き上げたものです。お米ならではの、もちっとした甘みが特徴ですね。口の中に柔らかく長く残る味わいを活かせたらと思っています」

滋賀県庁の農政政策課とも交流があり、滋賀県産フルーツ品評会にも出席しているという前田さん。地産地消についても、並々ならない強い思いがあります。
「農作物の生産者、中間の流通業者、そして、私たちのような加工業者。その誰もが、地産地消に対する“思い”はあるのです。ただ、それがうまく繋がっていないというのが現状ではないかなと。それらの点と点を繋げる作業をして、各業界団との繋がりを広げていく、すなわち、地産地消のよい“サイクル”を作りたいと思っています」
ただ、地産のものをお菓子にするだけじゃないと前田さん。たとえば、前田さんが今注目しているのがイチジクだそう。
「今年、たまたま優良なイチジク生産者の方と知り合うことができたのですが、ゆくゆくはお菓子を作る立場から、スイーツに向くイチジクはどういう味わいや特徴が求められるかなど、加工する側からのニーズや要望を伝え、品種開発の手助けになればいいと思っています。その延長線上に、滋賀県スイーツ、近江スイーツの可能性が広がるような形が理想的ですね」




自分が体験したお菓子作りの「面白い!」という感動を若いパティシエや、パティシエを目指す学生に味わって欲しい。

製菓学校での学生への指導など、若手の育成にも力を入れている前田さん。そこにも将来を見据えた“狙い”がありました。
「私の店では、新入社員も含めて製品開発を行っています。経費を使って試作提案をできるような体制を整え、たとえ採用されなくとも日々の仕事では見えないもの作りのしんどさと面白さを経験してもらえたらと思っています」
その経験をするからこそ、お菓子作りにのめり込み、本を読んだり先輩の仕事ぶりを見たりして知識と技術を必死で吸収し、いよいよプロの自覚を持ち始めたとき、よい製品提案ができるのだと前田さんは続けます。さらに、社内での競争意識と助け合いの気持ちがチームワークにも影響するのだとか。
「教育……といった大層な話ではないのです。ただ、自分がお菓子作りを覚えていくときに感じた“面白い!”という感覚を若い世代にも同じように感じてもらえたらと。自分の感動の最大値が、自分が作れるおいしいお菓子の限界値だと思っています」

ほかにも大津市とドイツが姉妹都市のこともあり、ドイツでの菓子研修・ドイツのレストランの経営(役員として参加)など、多岐に渡って活動している前田さん。
休日には、雪のある間は毎週スノーボード、お茶にもはまり(茶名も取得という腕前!)茶会を行ったり、ワインも好きでソムリエ協会の試験を受け、ブロンズクラスに合格したり……。驚くほど精力的に活動されています。
その原動力は、子どものころに初めて食べたフルーツケーキのおいしさ、そして、“もの作り”への強い思いが影響しているに違いありません。


 

店名 パレットアトリウム(皇子山)
住所 滋賀県大津市皇子が丘3-3-23
電話・FAX 077-525-1231
最寄駅 湖西線 大津京駅から徒歩5分
目印 皇子が丘二丁目の交差点角、皇子山交番の隣
営業時間 9:00~20:00
2階のカフェド・シナモニは11:00~18:00
定休日 第3水曜日
駐車場 あり 20台
イートイン あり 24席
クレジットカード
お取り寄せ 一部可
お取り寄せ方法 HPのオンライショップページから
ホームページ、ブログ等

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